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2003年9月10日

 以前に紹介した長崎大学附属図書館の[幕末・明治期日本古写真コレクション]に[超高精細画像データベース]なるものが追加され、公開写真の一部を大きな画像で見ることができるようになった。しかも単に画像が大きくなったというだけでなく、javaアプレットを利用してかなりの倍率まで自由に拡大して見ることもできる。インターネットを通しての作業なので少々まどろっこしいのは仕方のない所だが、虫眼鏡を覗くように古い写真の細部を調べていると、その時代に入り込んでしまったような不思議な臨場感を覚えた。
 たとえば目録番号1043、大阪北新地の今はない蜆川を写した写真の、お茶屋の裏窓に干された布団や洗濯物に漂う、ハッとするような生活の匂いはどうだろう。また目録番号2856の道頓堀の芝居小屋とその前にたむろし、往来する人々の写真。シャッター速度が遅いせいで大人たちの姿はたいていブレてしまっているのに、子どもたちの顔は、珍しい撮影の様子に一心に見入っていたからだろう、不思議に鮮やかに写し取られていて、クローズアップでその一つ一つを見ていると、時間の壁を超えて芝居町の少年たちと直接向き合っているような感覚に襲われた。彼らはその後この町でどんなふうに生きて死んで行ったのだろうか、そんな感慨も湧いてくる。
 もちろん、この「超高精細画像」の一番のメリットは、多くの歴史的地誌的な情報がそこから取り出せるかもしれないという点にあるだろう。その点でローカルな発見を一つ(といっても、各写真に付されたていねいな解説にすでに触れられていることだが)。目録番号1269の写真は、幕末・開化期に活躍した英人写真家フェリックス・ベアトが神戸を撮ったもので、明治4年の付け替え前の生田川の姿をとどめるものとして比較的有名だが、このデータベースにはその後の旧生田川筋の変貌を記録した写真も2点納められているのだ。4090番と4134番がそれで、水を失った旧生田川筋が次第に市街地に吸収されていく様が記録されている。拡大して仔細に見ると、家の建ち具合や道路の整備の様子から後者の方が少し後のものであることがわかったが、そんな詮索もまた楽しかった。