2003年3月13日
丸善が「江戸・東京重ね地図」というCD-ROMを出しているのを知って、さっそく購入して遊んでみた。名前の通り、江戸の町絵図と現代の地図がぴったり重ねられていて、スクロールバーで時代を切り換えて見ることができる。といっても、江戸の地図に実測的な正確さを求めるのは無理な話で、どうやってぴったり重ね合わせることができたのだろうと付いてきた冊子を読んでみると、江戸の地図はなんと古地図をそのまま取り込んだものではなく、膨大な江戸・明治初期の地図資料をもとに独自に作られたものらしい。(すでに'94年に朝日新聞社から『復元・江戸情報地図』という大冊として出版されていたよう。グラフィックデザイナー中川恵司氏の労作)今回のCD-ROMはそのデジタル版だが、現代の地図と重ねられることによって、利用価値が何倍にも広がった。
たとえば、江戸の頃栄えたあの地は今どうなっているのだろう、というような場合。試しに、江戸モードの画面で、浅草の北方、田圃のなかに出島のように浮かんだ新吉原を見つけて、現代モードに切り換えて見ると、周囲はもちろん人家で埋めつくされているが、それでも往時の地割りはほぼそのままで、見返り坂の曲がり具合もまったく変わっていないのを知ることができた。墨東の名所などについても、今昔の変わりようをいとも簡単に実感できてしまうという具合だが、この場合は地図の下に「大名・公儀・寺院・神社・地名・文化・鬼平・切絵図」と並んだ検索項目を利用するのが便利。文化→隅田川遊覧と選択すれば、隅田川両岸の名所がずらりリストアップされてくる。この検索項目が実によくできていて、詳細な江戸の地誌インデックスとして、一つ一つ見ていくだけでも楽しい。ただ、贅沢を言わせてもらうならば、やはり単純な全体検索の機能も欲しいところ。知りたい場所を、多くの大項目・小項目のなかから探し出すのは、けっこう面倒な場合もある。
それと、これは冊子のあとがきでプロデューサーの人も言っていることだが、明治や戦前の地図が江戸と現代の間に入ってくると、町の移り行きがよりスムーズに体感でき、興味は何倍にも広がることだろう。また東京には江戸の記憶だけでなく、近代の作家たちの足跡も色濃いわけで、たとえば荷風が盛んに歩いた頃の地図を見て、その足跡を江戸・現代の両方の視点からたどることができれば、どんなに興味深いことだろう。この企画は当初「江戸・明治・大正・昭和戦前・戦後四十年代・昭和六十年代・平成という幾つもの時間軸から東京という巨大都市の変遷を見る」という発想からスタートしたということだが、それが江戸・平成のみで製品化されたのは、CD-ROMの容量の制限によるものらしい。しかし、最近のDVD環境の急速な普及で、理想の重ね地図が実現される日も近いかもしれない。期待して待ちたい。