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2000年8月30日

泉鏡花を読む]の[お知らせ]に、鏡花の直筆原稿を公開している[慶應義塾大学稀覯書]サイトが紹介されている。さっそくのぞきに行ってみると、鏡花の原稿だけでなく、さまざまなコレクションが置かれていて面白かった。特に浮世絵のアーカイブがなかなかの充実で、江戸期の浮世絵師はもちろん、明治以降の浮世絵師・版画家の作品にも触れることができる。なかでも、明治の代表的な風景版画家、小林清親の作品が50点以上あるのが貴重。サイズも大中小3パターン用意されていて親切だ。清親の絵は、もちろん江戸風景版画の創造性に及ぶべくもなく、技術的にも拙劣に見えるが、西洋の技法を適度に消化して近代的で、何よりも江戸の余光を宿した東京の町々の面影を懐かしく拾い上げていて、けばけばしい文明開化の錦絵などに比べれば、十分に鑑賞に耐える。さらに、もう一人面白かったのは井上安治という人で、見られる絵は数点だけだが、これがとてもいい。気になったので調べてみたら、清親の弟子ということで、若くして逝った天才版画家などと、一部では高く評価されている様子。視点を低くとって、川や家並の広がりをのびやかに描いたその絵は、絵そのものとしては清親よりすぐれている感じ。ダウンロードした「浅草橋夕景」の絵をデスクトップの背景に張りつけてみたが、結構気に入っている。