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2000年5月19日

 [東北大学附属図書館]で夏目漱石の旧蔵書などを収めた「漱石文庫」の本格的な公開が始まっている([漱石文庫目録検索])。これまでも漱石の蔵書目録は暫定的に公開されていたようだが、ジャンル別に分類されて、その全貌が把握しやすくなったし、検索機能がついた。加えて、新たに漱石の自筆資料(「明治31年から大正5年までの日記・断片15冊をはじめ,文学論執筆のために書きとめられたノート断片や学生時代の試験答案,試験問題等約700点からなる資料群」)がすべて画像化されて公開されていることも注目に値する。3,527点の画像データには今回初めて公開されるものも少なくないということだ。もちろん、そうした断簡零墨の類から、いかほどの新発見があるかは疑問だが、漱石の余光を慕う人にとっては、隅々まで目を通したいページということになるのではないだろうか。また、漱石蔵書に言及した研究文献約180点をピックアップして、言及部分を抜粋した[漱石文庫関係文献目録]も労作だろう。
 膨大な漱石の蔵書目録にざっと目を通してみての僕なりの印象。漢詩関係は中国が中心。江戸・明治の詩はごく少ない。同時代の日本の小説の蔵書は志賀直哉・芥川各一冊以外皆無。贈呈本が多かったはずだが、それは別扱い? それに比べて、欧米の創作文学の豊富さ。いや、そもそも蔵書全体1,552点の内、洋書が1,121点、和書431点と洋書が圧倒的に多いということから、漱石の拠って立つ基盤がわかるように思う。東洋にお世話になったのは、漢詩・俳句・書画、禅の道話といった分野のみか。そして全体に社会・政治思想関係のものが少ないような気がするが、当時の出版事情、思想状況のせい?