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2000年1月23日

 大雪の後の雨の日曜。待望の雪山散歩にもスキーの練習にも行けず、ローカルディスクに保存してある[ミュージアム名所江戸百景]を眺めて無聊を慰める。東海銀行が設けている[浮世絵ギャラリー「アート広重」]の常設展示のひとつで、他にも「東海道五十三次」や「東海道張交図会」があるが、これが一番見応えがある。119点の一枚一枚に簡単な地誌の解説がついているのも有り難い。もちろん画質は印刷物に及ぶべくもないが(全体に色が派手な感じがするのは、版によるものか)、江戸のビジュアルガイドとしてなら十分に楽しめる。
 とはいえ、アーチスト広重についても少しく感じるところあり。最晩年のこのシリーズに至って広重は、それまでのリリカルな風景画家というイメージを捨てて、北斎流の大胆な構図を採用している。常に北斎に対抗意識を燃やし、精力的に絵組みのおもしろさを追求する北斎に対して、あくまで穏やかな写実の滋味にこだわってきた広重の、この変節はどうしたことか。思うに、広重という人は、先行する北斎とは違う道を歩かなければならない宿命を負いながら、北斎に憧れ、多くのものを学んだ人ではなかったろうか。そして自分がついには巨人北斎に及ばないことを知っていた人ではなかっただろうか。だから、北斎の死によって、ことさらな対抗の必要が失われた時、存分に北斎に倣ったこのシリーズが描かれることになったのではないか。「名所江戸百景」はある意味で広重が北斎に捧げたオマージュではないか…。そんなことをぼんやり想像する。