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1999年11月30日

 [国立歴史民族博物館]のギャラリーに洛中洛外図(歴博甲本)の画像データがある。六曲一双の、片面が縦124センチ・横272センチという大屏風を、ほぼ原寸大(僕の表示環境では)で見ることのできる労作だ。もちろん、一枚ものとして表示することなど不可能だから、六つ折れの一扇を縦方向に4分割、それをさらに9分割。この分割過程をウェブ上でたどっていくと、最後にほぼ原寸大の部分画像にたどり着くことができる。最後の画像以外は、ほとんど鑑賞に適さない画質だから、この歴博甲本の全貌を視野に収めようとする人は、実に432枚の画像を表示しなければならないということになる。ため息もののスケールだが、世の中に洛中洛外図の原寸画像を完璧に収めた画集など存在しないのだから、このギャラリーの価値はどうしたって高いと言わねばならない。
 と、冷静ぶっている場合ではない。室町から江戸前期にかけて、次々に華麗な芸術を生み出した京の文化の、その創造力にあふれた奇跡のような都市の姿を、僕らに伝えてくれる洛中洛外図である。以前から、その隅々までをそこに住み込むようにして探訪してみたいものだと、心より願っていた僕なのだ。虫眼鏡でのぞかなければならないような出版物の縮小画像や部分図ではとうてい無理でも、デジタルデータならこの夢を適えてくれるかもしれないと、ひそかに期待していたのでもある。歴史民族博物館のウェブギャラリーに出会って、その夢が適ったとまではいかないものの、期待はいよいよ高まった。ただウェブでは、やはりちょっと苦しい。細切れではなく、ドップリのめり込める一枚ものが望ましい。17世紀の京のざわめきと匂いのなかを、矢印キーで無限にさまよいたい。だから、できればCD−ROMかDVDで、原寸に近い一枚物の洛中洛外図を、そして願わくばその最高傑作、舟木本の活気にあふれた世界を、だれか電子化してくれないだろうか。この豪華な京洛散歩を実現するためなら、少々の出費も惜しくはないんだが…。