△次 ▽前 ▲戻る

2002年9月12日

 大手出版社が共同で運営している電子本販売のサイト[電子文庫パブリ]を久しぶりにのぞいてみて、商品がずいぶん増えているのに驚いた。現在、総作品数3700冊だそうだが、書籍の電子販売に出版社も本腰を入れ始めたということだろうか。あまりに紙の本が売れないので、背に腹は変えられないということかもしれない。3700冊の多くは盛りを過ぎた際物といった類の小説だが、なかには目を疑うような大作も混じっている。たとえば、石川 淳『狂風記』、武田泰淳『快楽』、大岡昇平『堺港攘夷始末』、堀田善衞『若き日の詩人たちの肖像』、福永武彦『忘却の河』…。これらの錚々たる作品を、古本屋を探し回らなくても安価で入手できるのは有り難いことだが、考えてみるとこれらの本は、印刷しても当分は売れそうにないものと、出版社が営業的に見限った存在といえなくもないわけで、今の出版界、ひいては日本の読書をめぐる環境がそんな状態にあるとしたら、喜んでばかりもいられない気がした。それともこれは、思い切って質の高い作品を投入することで、電子書籍の地位向上をめざした(そこまで出版社が電子本に肩入れしているとは思えないのだが)出版社の英断と取るべきだろうか。
 こうした既存の本を電子化して販売しようという大小の動きがある一方で、オリジナルな電子本の出版・販売をめざすサイトも意外に増えていて、この分野もえらく賑やかになったなというのが久しぶりにのぞいてみての感想だ。ただ、それらのサイトにも、いいコンテンツをごく安価な費用で電子出版の世界に導こうという良心的な使命感を感じさせる所から、従来の自費出版請け負い商売の流れを引きずった儲け主義の露な所まで、志から仕組み・価格体系で実にさまざまなものがあって、やはり草創期の感が強い。インターネット発の電子本が市民権を得ていくかどうかは、これからの展開次第だと感じた。
 電子本出版・販売サイトのリンク集としては、[ポシブル堂書店]による[発見!電子書店]が網羅的。