2000年12月8日
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J-text日本文学学術的電子図書館]に木下利玄の全歌集が登録されている。大正15年刊の岩波版を底本にしたもので、この春リクエスト復刊された岩波文庫のものとは、編者は同じだが、編み方が違う。文庫が歌集ごとに編まれているのに対して、これは歌集をバラして年代順に配列していて、これはこれで見通しがよくて、読みやすい。第一、古本屋で数千円の値がついている本なのだから、木下利玄ファンにとって有り難い電子化でないはずがないだろう。
公開されているのはHTMLファイルと縦書き表示のQTView版だが、可塑性を考えてプレーンテキストに変換して、T-Timeで飛ばし読みしていると、これまで気づかなかったいい歌がいくつも見つかった。岩波文庫を出してきて比べてみると、もちろん中身はほとんど同じだが、文庫は新しく文字を組んだものではなく、古い紙面をそのまま写真製版したらしく、読めなくはないという程度のお粗末な印刷。縮こまったつぶれ加減の文字は、魅力的な歌をこの世に顕現するものとしては、少々寒々しい。それに対し、T-Timeは縦書き・横書き、文字種・サイズはもちろん、字間・行間、文字色・背景色まで選択できて、かなり自由に自分好みの紙面を作ることができる。もちろん移動のままならないモニター上の紙面だから、小説などの長いものを読むのは現実的ではないが、1画面で片づく(しかも文字による表象が、かなりの程度までその効果を左右するように思える)詩歌なら、出来の悪い本よりはるかに鑑賞に役立つツールになっている、といえそう。そのことに気づかされて、これまで漠然と持っていた、読書での本優位の固定観念が揺らいだ。
そういえばこの秋には、谷川俊太郎の全詩集がCD-ROMで出たし、新しい世紀に本の運命や如何に。