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詩作の後


最後の筆を投げ出すと
そのまゝ書きものの上に
體をふせる
動悸が山を下つて平地に踏み入る人の
足どりのやうに
平調を取り戻さうとして
却つて不安にうちつづける
窓を開け放った明るい室内に
いつの間にか電燈が来てゐる
目はまだ何ものかを
見究めようとする強さの名殘にかがやきながら
意味もなくそれを見てゐるうちに
瞳は内なる調和に促されて
いつか虚ろになつて
頭腦を孤獨な陶醉が襲つてくる
庭一杯に茂り合つた
いろんな植物の黒ずんだ葉の重りや
花の色彩/いろどり/
緻密畫のやうに鮮やかに
小さく遠のいてうつる
やがて夜の昆蟲のむれが
この窓をめがけて
にぎやかに飛び込んで来るだらう
瞼がしずかに垂れる
向うの灌漑池では
あのすこやかに枯れきつたいつもの老農夫が
今日も水浴をしてゐるだらうか
濃いい樹影が水に浸るやうに
睡りにふかく沈んでゆく