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亡き人に


雀はあなたのやうに夜明けにおきて窓を叩く
枕頭のグロキシニヤはあなたのやうに默つて咲く

朝風は人のやうに私の五體をめざまし
あなたの香りは午前五時の寝部屋に涼しい

私は白いシイツをはねて腕をのばし
夏の朝日にあなたのほほゑみを迎へる

今日が何であるかをあなたはささやく
權威あるもののやうにあなたは立つ

私はあなたの子供となり
あなたは私のうら若い母となる

あなたはまだゐる其處にゐる
あなたは萬物となつて私に滿ちる

私はあなたの愛に値しないと思ふけれど
あなたの愛は一切を無視して私をつつむ