登山歴10年目にして得た新しい道具、山スキー。
自家薬籠中には程遠く、転けつまろびつの山行もまた楽し、とはいえ、たまにはこんなシュプールを描けることだってある。
その日、江越国境上谷山は終日抜けるような青空とやさしいフィルムクラストの雪質で、このへぼスキーヤーをもてなしてくれた。
シャラシャラと透明な氷の薄皮を踏み砕いて登り着いた山頂からは、奥越の山々のまばゆいパノラマ。
そして、恐る恐る滑らせ始めたスキーは、なぜか縺れることなく、きれいな蛇行を続けて、不安な斜度もこの日ばかりは余裕でパス。
一滑りの後、振り返ってシュプールを確かめる甘美な反芻の時間も、またこの魔法の道具の美点と知った。
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