常念の横に登る朝日とその光に映える穂高を眺めてから、テント場へ戻ろうとして振り返ると、離れてきた常念平のシルエットが鮮やかだった。 まだ光に破られないこのささやかな地平にも、ケルンの鋭鋒が気高く聳えている。 高山では澄んだ大気や無駄を削ぎ落とした地形、極限の調和を見せる植生のせいで、いたる所で純粋な風景に行き会える。 一望千里の大観はもとより、足元の岩に地衣類が描きだす模様にも苛烈な美しさがある。 それをどれだけ見逃さずに感受できるか。 山で試されるのは体力だけではない。