岩谷林道から江越国境稜線に向けて尾根を登る。
地形図の等高線をにらんで選んだ登路だが、今年の異常に遅い新雪が、南斜面のせいで早くも緩んでいるのはともかく、古いブナの多い自然の濃い尾根だった。
途中からそれを裏づけるように、大きな足跡と合流したので、ますます悦に入って進んだ。
と言いたいところだが、爪の形までくっきり残る新しい大きな足跡には、まつわりつくように小さな足跡が伴っていて、必ずしも無心にとは言えない登りになった。
時々立ち止まっては、ことさらに大きな柏手を打ったのは、この単独行者が敬虔なる山岳教徒であるためばかりではない。
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