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2002.12.6台高縦走路

 初冬の山歩きの楽しみの一つは日溜まりのコバで憩うこと。
 冷たい風が吹き抜ける稜線を、耳と指先をジンジンさせながら歩いてきて、ブナ木立のなかに、落ち葉がたっぷり溜まった小さな窪地を見つけた時ほどほっとすることはない。
 急ぎ足でその底に降り立つと、フリースを突き通す風の攻撃はピタリと止んで、乾いた枯れ葉のふかふかのクッションは携帯コンロの置き場所を探すのに苦労するほど。
 稜線の木々を揺るがす風の音のなかで、少しずつ湯が沸いてくる響きに耳を傾けながらひそやかに過ごす時間は何ものにも代え難い。
 ゆっくり啜るコーヒーの熱が体の奥底まで届き、萎えかけていた闘争心が蘇ってくるのを感じたら、そろそろこの場所を離れる汐時。
 また稜線へ、寒風の矢面へ、力づけるように靴底を押し上げる落ち葉の感触を一歩一歩確かめながら、登って行くのだ。