日本で一番標高が高いという峠を越えて、ダケカンバが明るく黄葉した谷を下って行くと、小さな小屋と気持ちのいいテント場があった。 周囲はシラビソの白い幹に黄葉の混じる森で、谷の向こうには前衛峰が穏やかな姿で静まり、明日登る3000m峰の方へ差し招いているようだった。 どこにも翳りや険しさのない高山の秋だった。 さすがに夜は冷え込んだので、他に人の居ないのをいいことに、小屋の土間で煙ばかりの下手な焚き火をした。 いがらっぽい喉にウイスキーが心地よく沁みた。