山で好きな花木は?と聞かれたら石楠花をあげる人が多いだろう。
しかし、我ら藪漕ぎ派にとって石楠花は、初夏に妖精のような花をつける木であると同時に、大いなる試練を与える木でもある。
たとえば痩せた稜線のコースを行く時、見上げる尾根がビッシリ石楠花の枝と固い葉でおおわれていた時の落胆と前途多難の予感…。
だから、花のない時期の石楠花の沈鬱な姿には、忌避したいものを感じないわけにはいかない。
そんなアンビバレントな感情なしで無条件に好もしい花木といえば、シロヤシオ以上のものは思いつかない。
梅雨前に短い盛りを迎えるその花は類なく清楚で、繊細な五葉の新葉はかすかな縁取りを帯びて可愛く、木の下に佇んで、花と葉を透かし見る時の清々しさはこの上ない。
しかもその幹は、古格な曲折を帯び、肌は味わい深く、石楠花とは正反対に、人を憩わせるあたたかさと懐かしさを持っている。
登り着いた尾根にこの木があるのを見る時は、その日の山の選択が正しかったことを、歓びとともに確認するだろう。
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