おーい、さっきからそこで何をしてるんだ。
写真を撮ったり、双眼鏡でのぞいたり、色々うるさくやってたって、耳さえピクリともしないじゃないか。
あんまり愛想がないじゃないか。
たまたま出会った生き物同士、何とか挨拶があったっていいもんじゃないか。
もしそれが、何かの擬態のつもりなら、春まだ早い林のくすんだ色に、毛並みは真っ黒すぎるし、小さな角だって光ってるし、だいいち体中に漲ってる精悍な何かは、どうしたって立派な獣じゃないか。
さあ、僕はもう行かなくちゃならないけれど、こんな高嶺では新緑の優しい季節まではもう少し。
待ち遠しくたって、恋しくたって、あんまり憧れ出るんじゃないぞ。
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