淀川 Mar.1997.

  篷窓 夢始めて醒む
  川広く 処を知らず
  杜宇 二三声
  月沈み 天曙ならんとす


 淀川を上り下りして旅客を運んでいた三十石船の上で迎える曙の様子を歌った詩。三十石船は伏見・大阪間を一日二回上下し、所要時間は上り船が一日または一晩、下り船が半日または半夜だったということですから、この詩はおそらく前夜伏見を発った下り船を思い浮かべて書かれたものでしょう。ホトトギスの啼く初夏、船は大坂に近づいた毛馬の辺りか。浅い夢から覚めて見回しても、茫として水面が広がるばかり。どこからともなくホトトギスの声がして、空を見上げると月はもう姿を消し、東の空が白み始めています。物見遊山ではなく、日常的な交通手段でさえ、つねに豊かな情景と隣り合っていた当時の都市文明。その何倍もの移動速度を得た代わりに、味気ない鉄の箱の中で調和を欠いた都市風景に目を貧しくしながら、京都・大阪を行き来する私たちにとっては、まことに羨ましいかぎりです。まあ、失われたものを嘆いても仕方がありませんから、京阪電車のなかで車窓の景色をながめながら詩が書けるような、美しい町をみんなで作ることにしましょうよ。ちなみに、三十石船については、次のような狂歌も残されています。肉体的な快適さと精神的な豊かさの調和は、都市文明の永遠の課題ということでしょうか。
○弁当のにぎり飯までおしつぶしすしのごとくに詰めた乗合
○船つけて小便をした女連れさつても楽になつた前しま