越美の山を知ってから雪のシーズンが長くなった。
春の花が咲きほこる町を離れて、石徹白の谷を遡ると、まだたっぷりの雪。
ハーフドームの願教寺から魅力的な高原を抱えた薙刀まで、よく締まった雪稜歩きを楽しんで、開拓の碑が寂しく残る和田山牧場跡で一息。
雪の消えた枯れ草にすわって甘夏を剥きながら、あちこちの筋肉の強張りにハードだった一日を反芻する、人生の味わいを凝縮したような時間。
といえば大仰だが、春山の帰路にはなぜか気だるい充足感が濃い。
まばゆい日差しの下で、汚れて弱っていく雪。
だらしなく崩れて厳冬の牙を失った雪庇。
そんなイメージを思い返しながら、季節に別れる気持ちで長い林道を下った。
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