鈴鹿の山懐で泊まった朝、霜の置いたテントを這い出して沢に降りると、まだ小暗い流れの奥で、朝日を浴びた山肌が輝いていた。 豪奢なばかりの金色や滋味深い赤銅色の、それはどんな画家も真似できない心を揺さぶる秋の山の色彩だった。 9月の八ヶ岳のダケカンバの黄葉から始まった今年の我が秋山もどうやら今日がクライマックス。 たぶんあと1週間もすれば、山はもうしんと静まり返って潔癖な冬の表情を身につけ始めているはず…。 そんなことを思いながら、顔を洗うのも忘れてしばらく輝きに見とれていた。