椈には雪がよく似合う。
真っ白な雪原から素直に抜き出た若椈の幹は、笹や灌木を背景にした時よりいっそう艶やかで、少し身をよじった姿には、なまめかしささえ漂う。
吹雪の朝には、枝々は白銀の霧氷をまとい、風が吹くと、シャラシャラと輝きながら降り注ぐ。
大雪の朝には、太枝の又に雪をどっさり蓄え、陽が照ると、融けて幹をまんべんなく濡らす。
そして夜、椈は透明な氷柱になる。
最初に雪に分かれを告げるのも椈だ。
ゆっくりと目覚めた幹は温もりを帯び、根元の雪を融かして、最初の土が顔を出す。
それに励まされたように笹が身を起こし、森にさまざまな色が戻りはじめる。
そして春が来る。
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