鉄斎美術館・春季展の第1回展示で見て好きになった絵。印象を再構成するよすがとなる写真版がないので、あいまいな紹介しかできないが、緑がかった黄色に塗られた峰(遠くの峰はほとんど淡緑)を背景に、葉を落とした木々に囲まれた山荘を描いた絵で、峰の色合いが実によく、木々の枝の描かれ方が、パリの街路樹を描いたユトリロか何かで見たように洒落ていて、両者の色彩とタッチが心地よく調和して、画面には独特の魅力が湛えられていた。 42歳のときに描かれたという、ごく初期の絵だが、鐵齋の初期の山水図には、特定の技法を消化するために描いた、明らかに習作とわかる作品がある一方で、こんなふうに江戸の南画家たちや中国の画人には見られなかったオリジナルな(と言い切るには、和漢の画の知識があまりに貧弱で、ほとんど臆断でしかないのだが)画境を示しはじめた絵があるように思う。それらは、後年の絵に比べてタッチは繊細なのだが、色使いはすでにかなり自由で、構図も初期に影響があったと言われる田能村竹田などに比べてはるかにダイナミックで、しかも全体としてほとんど破綻を感じさせない。そこには、一つの芸術形式の末期に現れる天才に特有の早熟な、すでに味わうに足る芸術的完成があるし、同時にその後の爆発的な展開の予兆も感じられる。最近になってようやくそのことが分かってきて、30代・40代の作品にも尽きない興味を覚え始めているところだ。 (2001.7.26) |