水無瀬三吟何人百韻        長享二年正月廿二日 肖柏御案内にて、宗祇摂津へ下向之時、 山ざきにとまり給ひての會と也。 雪ながら山本かすむ夕べかな        宗祇 行く水とほく梅にほふさと         肖柏 川風に一むら柳春見えて          宗長 舟さす音もしるきあけがた          祇 月や猶霧わたる夜に殘るらん         柏 霜おく野はら秋は暮れけり          長 なく蟲の心ともなく草かれて         祇 かきねをとへばあらはなるみち        柏 山ふかき里やあらしに送るらん        長 なれぬすまひぞさびしさもうき        祇 今更にひとり有る身をおもふなよ       柏 うつろはんとはかねてしらずや        長 置きわぶる露こそ花に哀れなれ        祇 まだ殘る日のうち霞むかげ          柏 暮れぬとや鳴きつゝ鳥の歸るらん       長 深山をゆけばわく空もなし          祇 はるゝまも袖は時雨の旅衣          柏 わが草枕月ややつさん            長 いたづらに明かす夜おほく秋更けて      祇 夢にうらむる荻の上風            柏 見しはみな故郷人の跡もうし         長 老の行方のなににかゝらん          祇 色もなき言の葉をだに哀れしれ        柏 それも友なる夕暮の空            祇 雲にけふ花ちりはつる嶺越えて        長 きけば今はの春のかりがね          柏 おぼろげの月かは人も待てしばし       祇 かりねの露の秋の明けぼの          長 末野なる里ははるかに霧立ちて        柏 吹きくる風はころもうつ聲          祇 さゆる日も身は袖うすき暮毎に        長 たのむもはかなつま木とる山         柏 さりともの此の世の道はつきはてて      祇 心ぼそしやいづちゆかまし          長 命のみ待つことにするきぬぎぬに       柏 なほ何なれや人の戀しき           祇 君を置きてあかずも誰をおもふらん      長 そのおもかげににたるだになし        柏 草木さへふるき都の恨みにて         祇 身のうき宿も名殘りこそあれ         長 たらちねのとほからぬ跡になぐさめよ     柏 月日の末や夢にめぐらむ           祇 此の岸をもろこし舟のかぎりにて       長 又生まれこぬ法をきかばや          柏 あふまでとおもひの露の消え歸り       祇 身を秋風も人だのめなり           長 松むしのなく音かひなきよもぎふに      柏 しめゆふ山は月のみぞすむ          祇 鐘に我たゞあらましのね覚めして       長 いたゞきけりな夜な夜なの霜         柏 冬がれのあしたづわびてたてる江に      祇 夕しほ風のとほつ舟人            柏 行方なき霞やいづくはてならん        長 くるかた見えぬ山ざとのはる         祇 茂みよりたえだえ殘る花おちて        柏 木の本わくるみちの露けさ          長 秋はなどもらぬ岩やも時雨るらん       祇 こけの袂も月はなれけり           柏 心あるかぎりぞしるきよすて人        長 をさまる波に舟いづる見ゆ          祇 朝なぎの空に跡なき夜の雲          柏 雪にさやけき四方のとほ山          長 嶺の庵木の葉ののちも住みあかで       祇 さびしさならふ松風の聲           柏 誰か此のあかつきおきをかさねまし      長 月はしるやの旅ぞかなしき          祇 露ふかみ霜さへしをる秋の袖         柏 うす花すゝきちらまくもをし         長 うづらなくかた山暮れてさむき日に      祇 野となる里もわびつゝぞすむ         柏 かへりこば待ちしおもひを人やみん      長 うときもたれかこゝろなるべき        祇 むかしよりたゞあやにくの戀の道       柏 わすられがたき世さへうらめし        長 山がつになど春秋のしらるらん        祇 植ゑぬ草葉のしげき柴の戸          柏 かたはらにかきほのあら田返しすて      長 行く人かすむ雨のくれがた          祇 やどりせん野を鶯やいとふらん        長 さ夜もしづかにさくらさくかげ        柏   とぼし火をそむくる花に明け初めて      祇 誰が手枕に夢は見えけん           長 契りはやおもひたえつゝ年もへぬ       柏 今はのよはひ山もたづねじ          祇 かくす身を人はなきにもなしつらん      長 さてもうき世にかゝる玉の緒         柏 松の葉をたゞあさ夕のけぶりにて       祇 浦曲のさとよいかにすむらん         長 秋風のあらいそ枕ふしわびぬ         柏 鴈なく山の月更くるそら           祇 小萩はらうつろふ露も明日やみん       長 あだの大野をこゝろなる人          柏 忘るなよかぎりやかはる夢うつゝ       祇 おもへばいつをいにしへにせん        長 佛たちかくれては又出づる世に        柏 かれし林も春風ぞふく            祇 山はけさいく霜夜にかかすむらん       長   けぶり長閑に見えるかり庵          柏 いやしきも身ををさむるは有りつべし     祇 人におしなべ道ぞたゞしき          長