▲BACK
枯れた井戸

小石を投げ入れてみても
返ってくるのはつぶやきのような反響だけ
青空が広がり 風が吹き過ぎても
雪が降りこみ 土が凍てついても
何も与えず 何も期待されず
ただ時間が巡るのを見送っている

 街道に光はあふれ
 なめらかな水路に苔は緑を敷いて
 沸き立つ女たちの生活の声に
 深い水面までが一日揺れていた
 そんな時もあったのに

何が閉ざしたのだろう
見えない所で世界に通じていた心を
何が断ち切ったのだろう
次々にあふれてやまなかった透明な歌の流れを
今はただ 虚ろな口が乾いた闇を抱いて
照る陽 浮かぶ雲を飲みこんでいるだけ

 春になると風が花を運んでくる
 幾百と知れない薄桃の花びらが舞いこんで
 奥深い底まで光の粒子をとどける
 あでやかな昔の夢が甦えるけれど
 人知れずそれは色褪せていく