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ふたがみ

秋の終わりのさびしい日に
一人かの地をさまよったことがある

尺土という名の駅で下りて
古い街道を西へたどると
二上山の向こうに陽は傾いて
稜線をかすめて届く光が
力なく道端の雑草を染めた

めざす当麻寺へはすでに遅かったから
そのまま麓の村を心当てに通り抜けて
薄暗い灯のともる小駅へ行き着いたのだが
その日の取るに足らない独り歩きの記憶が
今でも時たまよみがえるのだ

最初の闇が音もなく流れこみ
土壁と黴の匂いが沈んでいた村落の路地
わずかな窓の光と人の気配を慕いながら
頼りなく迷路をたどった時の感覚が
今もどこかで続いている気がする

秋の終わりのさびしい日に
わが生のかたちに触れたことがある