五重塔遠望 Mar.1997.

平野 雲 雨をかもし
高原 樹 風に動く
荒陵 層塔の影
渺茫の中に隠見す


 「浪華十二勝」のなかでも随一のスケール感を誇る詩です。広々とした大坂平野の上に雨雲が分厚くかぶさり、嵐を予告するように上町台地の木々が身を揺する。そんな陰鬱な風景のなか、遠くからわずかに認められる四天王寺の五重塔。荒陵山という不思議にネガティブな山号にも通じるこの風景を、小竹はどこからか実際に目にしたのでしょうか。それとも、頭のなかで作りあげたのでしょうか。この詩にふさわしい写真をものしてやろうと、四天王寺を遠望できる地点を物色してみたのですが、遠ざかれば遠ざかるほど間に櫛比するビルによって見通しは不可能になり、結局四天王寺の層塔の姿を満足にとらえられたのは、境内と道一本はさんで立つマンションの踊り場というていたらくでした。当時の五重塔は大坂市内でも随一の高層建築。ほとんどの場所からその姿は目にでき、天候や季節によって多様な表情を見せたはずです。時には、こんな中国の南画みたいな深遠雄大な風景の主役にもなったのでしょう。なお、第一句の「かもし」は、漢字コードにはない字。仕方がないので詩の表示には「今昔文字鏡」の文字イメージを使いました。貧弱な漢字コードはなんとかならんもんでしょうか。